賃料はなぜすぐに変わらないのか

こんにちは。株式会社ビーメイン代表の木戸翔太です。
今回は「賃料の変動が不動産価格とズレる理由」や、「家賃がなかなか変わらない構造」についてお話ししたいと思います。
昔住んでいた部屋の賃料が28%も上がっていた話
19年前、私は大阪市西区の新築マンションを借りて一人暮らしをしていました。12階の1DKで約30平米。家賃は月8万2千円でした。
先日ふとその物件をネットで調べてみたところ、現在の募集家賃は10万5千円になっていました。
約2万3千円、28%もの上昇です。
堀江の中心地から少し外れた立地ではありましたが、駅も近く生活に便利な場所だったことから、エリア全体の価値が見直されてきたのかもしれません。ただ、これだけ家賃が上がっているとは思ってもいませんでした。
家賃と不動産価格はどう違うのか?
家賃(賃料)は「この価格であれば住みたい」と思う入居者の感覚をもとに決まります。周辺相場、築年数、設備などの要素から、現在の市場で妥当と思われる金額が設定されるわけです。
一方、不動産価格(とくに収益物件の場合)は、将来的に得られるキャッシュフローを予測し、その現在価値の総和を一定の利回りで割り戻すことで決まるケースが多くあります。
つまり、「どのくらいの利益が見込めるか」をもとに価値を見積もるという考え方です。
二つの価格は基本的に違うプロセスで決定されているので、同時的に変動するものではありません。そのため、相場が変化しても、それぞれが同じタイミングで動くわけではないのです。
「新規賃料」と「継続賃料」では反応スピードが違う
賃料には、大きく分けて以下の2種類があります。
- 新規賃料:新たに募集をする際に設定される家賃。市場の動きにすぐ反応する。
- 継続賃料:現在入居中の契約に基づく家賃。原則として契約中は簡単に変更できない。
とくに継続賃料には粘着性の性質があり、相場が上がっていてもすぐには家賃を引き上げられません。法律上の制約(借地借家法など)により、賃料改定には相応の理由と手続きが必要です。
そのため、同じ物件でも新しく入居した人と、10年以上前から住んでいる人とでは、支払っている家賃に大きな差が出ることがあります。
一方で、家賃が下落傾向にある場合には、粘着性はやや弱まります。より安い物件へ引っ越す人が増え、オーナー側も入居者確保のために賃料を下げざるを得ない状況が出てきます。こうしたときは、継続賃料も比較的早く相場に追いついていくことがあります。
実際、どのくらい遅れて動くのか?
データや実務の感覚では、新規賃料は不動産価格の変動に対して約1.5年から2年ほど遅れて反応する傾向があると言われております。
継続賃料に関しては、基本的にそれ以上に時間がかかります。入居者の更新タイミングや契約内容によって、賃料が据え置かれたままのケースも多く存在します。
既存物件はなぜゆっくり上がっていくのか?
最近は新築マンションの供給が続いており、こうした物件は今の相場をダイレクトに反映した新規賃料で募集されます。設備も新しく、強気の家賃設定が目立ちます。
一方で、中古の既存物件では、賃料の見直しは入居者の入れ替わりとともに少しずつ進んでいきます。
仮に年間の入れ替わり率を20%とすれば、全体が現在の賃料水準に切り替わるには5年ほどかかる計算になります。そのため、物件全体の収益が相場と一致するには時間が必要なのです。
さらに、既存物件では管理会社主導で賃料設定がなされているケースも多く、ここにも課題があります。
空室を出すことで「仕事をしていない」と思われるのを避けるため、管理会社は家賃をあえて低めに設定し、入居付けを優先してしまう傾向があります。
こうした方針は、目先の稼働率にはつながっても、長期的な収益性や資産価値向上という視点に欠けるケースも少なくありません。
オーナーがこの点に無頓着だと、賃料が上がらず、物件の収益性や資産価値がいつまでも低いまま、ということも起こり得ます。
最後に
不動産は、数字だけを見て一喜一憂するのではなく、時間とともにどう変化していくかに目を向けることが求められると、私自身あらためて感じています。
また、賃料改定が遅れている物件や、相場とのズレが残っているエリアに注目することで、将来的な賃料改善を見込んだ投資が可能になるケースもあります。
そういった視点をもつことが、良い物件との出会いにつながることもあると感じています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。