フルローンは本当にリスクか?──DSCRと返済設計で見る融資

ごあいさつ
こんにちは。株式会社ビーメインの木戸翔太です。
日頃よりお付き合いいただいている皆さま、また本コラムをお読みいただいている方々、いつもありがとうございます。
このコラムでは、不動産投資における「フルローン=リスク」という通説に対し、本当に見るべき視点はどこか?というテーマでお話ししたいと思います。
借入とリスク、その本質はどこにあるのか?
不動産投資において「フルローン」という言葉は、しばしばネガティブな文脈で使われます。
自己資金を入れていない=リスクが高い、という見方です。
ですが、融資のリスクを判断する際に本当に見るべきなのは、借入額の多寡ではなく、返済が収益に見合って設計されているかどうかです。
その健全性を客観的に判断できるのが、DSCR(元利返済余裕率)という指標です。
DSCRとは?──融資の“無理のなさ”を見る指標
DSCR(Debt Service Coverage Ratio)は、以下の式で表されます。
DSCR = NOI ÷ ADS
- NOI(Net Operating Income):営業純利益(家賃収入 − 運営費)
- ADS(Annual Debt Service):年間元利返済額
この数値が 1.0 を下回ると、物件からの収益で借入の返済がまかなえないことを意味します。
つまり、収支が破綻するリスクがあるというサインです。
逆に、DSCRが高いほど返済に余裕がある状態といえます。
DSCRは「結果」であり、設計で決まる
DSCRの値は単体では存在しません。以下の4つの要素によって決まる設計の結果です。
- NOI(収益力)
- 借入金額(LTV:借入比率)
- 金利
- 返済期間
たとえば収益性が高く、借入額を抑え、長めの返済期間を設定すれば、DSCRは自然と高くなります。
反対に、低利回り物件を短期・高額で借り入れた場合は、たとえ自己資金を入れていてもDSCRは低くなります。
ケース比較:LTV80%でもDSCRが低いことがある
物件概要:
- 価格:1億円
- 表面利回り:6.5%(年間家賃:650万円)
- NOI(運営費15%想定):552.5万円
- 借入:8,000万円(LTV80%)
- 金利:2.5%、返済期間:20年
- 年間返済(ADS):約507.9万円
- DSCR ≒ 1.09
自己資金を2,000万円入れていても、返済に対する余力はほとんど残っていない状況です。
返済期間を30年にすると?
返済期間を30年に延ばした場合、ADSは約379.3万円まで下がります。
- 新DSCR:552.5万円 ÷ 379.3万円 ≒ 1.46
返済期間を変えるだけで、DSCRは劇的に改善されることがわかります。
DSCRを1.3に保ちたい場合は?
この物件でDSCRを1.3にするには、ADSを425万円以下に抑える必要があります。
このADSで借入8,000万円を返済するには、**返済期間は約25.5年(25年6ヶ月)**が必要です。
結論:フルローン=リスク ではない
フルローンだから危ない、自己資金を入れていれば安全。
そのような単純な構図では、投資の本質は見えてきません。
本当に見るべきなのは、
借入が収益に対して妥当な条件で設計されているか。
DSCRというシンプルな指標を使えば、それが数値で見えるようになります。
CPM的視点:借入は“悪”ではなく“選択”
CPM(米国不動産経営管理士)では、借入を善悪ではなく、戦略としての選択と捉えます。
・収益性に見合った借入か?
・返済条件が無理なく設計されているか?
・将来的な保有・売却戦略に整合性があるか?
これらが整っていれば、フルローンでも問題ありませんし、むしろ資金効率として合理的な場合もあります。
まとめ:数字で冷静に判断する
投資判断は「なんとなくの安心感」ではなく、数字で見て、設計して、納得することが基本です。
DSCRはそのための強力なツールであり、借入に対する健全性を示す“体温計”のような存在です。
借入をリスクと見るのではなく、数字でコントロールするものと考える。
それが、不動産投資を長く安定して続けていくための確かな視点だと思います。