不動産投資で知っておきたい、もう一つの利回り「IRR(内部収益率)」

こんにちは。株式会社ビーメイン代表の木戸翔太です。
不動産投資の判断において、「利回り」という言葉はよく耳にするものの、その中身にはいくつかの種類があります。
本記事では、投資効率を“時間軸”で評価できるIRR(内部収益率)について、具体例とともに解説していきます。
「この投資、本当に良かったのか?」を数字で語るためのひとつの指標として、参考にしていただければ幸いです。
― 時間軸でとらえる「IRR(内部収益率)」という考え方 ―
「この物件、利回りはどれくらいですか?」
不動産投資の現場でよく出てくる質問です。
ただ、その「利回り」が意味しているのは、たいてい表面利回りや想定利回りのこと。
つまり「いま現在の家賃収入」に対してどれだけの利回りがあるか、という目安です。
もちろん、それも大切な指標のひとつです。
でも投資は、物件を購入したあと数年かけて運用し、最終的には売却して資金を回収するという流れがあります。
そう考えたとき、もう一つの見方が必要になります。
それが、IRR(内部収益率)という考え方です。
IRRとは?
回収までの時間と金額をひとつの利回りにまとめる指標
IRR(Internal Rate of Return)は、
「この投資が、年◯%の複利で運用されていたのと同じ効果がある」という考え方で、投資の効率を判断する指標です。
たとえばIRRが15%という結果であれば、
「自己資金を5年間、年15%の複利で運用していたのと同等の回収効率だった」と解釈できます。
言い換えると、購入から売却までのお金の流れを、ひとつの年率(利回り)に置き換えたものです。
IRRの強みは、「時間軸の変化」にも対応できること
IRRのもうひとつの強みは、毎年のキャッシュフローが変動するような投資にも使えるという点です。
たとえば、以下のようなパターン:
- 全空室で購入 → 時間をかけて満室にしてから売却
- 築古で修繕が必要 → 初期は赤字、その後黒字化して出口
- 土地を購入 → 建築 → 賃貸付け → 売却(開発型の投資)
こういった「時間をかけて価値をつくる投資」では、表面利回りだけでは何も判断できません。
IRRなら、お金の出入りがバラバラでも、その全体を“ひとつの回収効率”としてまとめられるため、再生案件や開発案件にも応用が可能です。
ケース比較|売却価格によってIRRはどう変わる?
共通の前提条件(シンプルなモデル)
- 物件価格:2,000万円(全額自己資金)
- 保有期間:5年間
- 毎年のNOI(営業純利益):150万円
- 借入:なし
- ※税金・修繕・手数料などのコストは省略。実務では融資や諸経費を考慮します。
ケース①:5年後に1,500万円で売却した場合
年 | 内容 | キャッシュフロー |
---|---|---|
0年目 | 自己資金投入 | −20,000,000円 |
1〜4年目 | NOI | +1,500,000円 ×4年 |
5年目 | NOI+売却 | +16,500,000円 |
→ IRR:約2.77%
実務では、購入価格(2,000万円)よりも売却価格(1,500万円)が低い場合、
一見すると「損をしている」と判断されがちです。
しかし、5年間にわたって毎年150万円のキャッシュフローを得ていたことを加味すると、
年利2.77%の複利運用と同等の回収ができていたという結果になります。
つまり、IRRは低水準ですが、「売却益が出ていない=赤字」とは限らないということ。
IRRは、“時間とキャッシュフローを通じた回収効率”を見せてくれる指標です。
ケース②:5年後に2,500万円で売却した場合
年 | 内容 | キャッシュフロー |
---|---|---|
0年目 | 自己資金投入 | −20,000,000円 |
1〜4年目 | NOI | +1,500,000円 ×4年 |
5年目 | NOI+売却 | +26,500,000円 |
→ IRR:約11.48%
売却価格が違えば、IRRも大きく変わる
どちらのケースも、保有中の収益は同じです。
でも、出口価格が違えば、投資としての「回収効率」は大きく変わるということが、IRRからは見えてきます。
IRRは「どのタイミングで、どれだけのお金が入ってきたか」に敏感なので、
再生案件のように初期が赤字・後半で回収というパターンでも、ちゃんと評価できる指標です。
実務では、5年スパンでIRRを見ることが多い理由
CPMやCCIMなどの実務系資格でも、IRRはよく使われる指標です。
その中でも「5年スパン」でIRRを見積もるケースが多いです。
その理由は以下のとおりです:
- 賃料や相場の見通しがある程度立てやすい
- 金利や市況変動の予測レンジとして現実的
- 投資回収と出口戦略を組み合わせやすい
取得前には「5年間でどれだけのCFと売却益が見込めるか」を仮定し、
売却前には「今までのCF+想定売却価格」からIRRを逆算することで、
この価格で売れば、年◯%で回収できた投資だったかが数字で見えるようになります。
IRRを活かすには、「数字の履歴」が必要
IRRは便利な指標ですが、元になるデータがなければ使えません。
特にすでに収益不動産を持っている人は、
毎月のキャッシュフロー(収入・支出)をしっかり記録しておくことが重要です。
- 家賃収入はいくらだったか
- 空室率や管理費などの実績はどうだったか
- 最終的にいくらで売却する予定なのか
これらの履歴を残しておけば、IRRを通じて「投資の回収効率」を明確に説明できるようになります。
まとめ|IRRは、時間で見る利回り
- 表面利回りは「いま現在」のスナップショット
- IRRは「時間を含んだ資金の動き」で投資を評価する指標
- 初期に赤字でも、全体で見れば成立する投資もある
- キャッシュフローの記録があれば、IRRは出口判断に強い武器になる
回収効率を、時間とともに見る。
IRRはそんな視点を与えてくれる、実務的な「もうひとつの利回り」です。